仙台箪笥は3つの職人技の結晶

仙台箪笥漆塗職人

漆がつくる輝き

指物に工芸的な美しさと、耀きを与えるのが漆塗。仙台箪笥では、鏡面のような艶めく光沢が見事な「木地呂(きじろ)塗」という技法が用いられてます。下塗、中塗、上塗すべてに透明度の高い透漆(すきうるし)を使用し、塗師が漆を塗っては磨き、また塗っては磨くという根気のいる仕事を積み重ねることで、指物の木目の美しさをより際立たせていきます。

仙台箪笥漆塗職人-広谷勝雄
職人file ①
仙台箪笥漆塗職人

広谷漆工店

仙台箪笥漆塗職人-広谷勝雄

職人が仙台箪笥で働けるようになるのに、3年くらいかかると言われているんだけど、わたしは最初っから仙台箪笥の塗りの方の仕事に関われて、修行していましたね。修行をはじめて一人前になるには、大体3~5年くらいはかかる。

もちろん最初は、作ったり塗ったりすることはやっぱり大変だったね。朝早く起きて、顔洗ったらすぐ仕事行って、仕事終わったら帰ってご飯食べてまた会社行って。7年くらいその繰り返しじゃなかったかな。場所も、山の奥の方でね。けど、だんだん慣れるものだよね。会社に入ってきた子を弟子に取ったこともあるしね。

職人になって最初から仙台箪笥に関わってきたこともあって、私は仙台箪笥としてはこれまでかなりの数を作ってきたのね。塗師のこだわりとしては、やっぱり漆にはこだわりますよね。塗りが漆塗りなもんだからね。何度も漆を塗り重ねていくから、手作業の漆塗りは手間も時間も掛かる。けど、手間も時間も掛けた分、漆独自の質感の良さがやっぱりあるよね。

今は昔ながらのやり方じゃ通用しない部分もあるし、量産が進んだこともあって本物の塗りの良さが分からない人も多いのかもしれないと思うと、ちょっと寂しいなって感じるときがあるね。まぁ、そうは言っても私はそんなに難しいことを考える人じゃないからさ。仕事の状況に応じて柔軟に対応していこうと思っていますね。

仙台箪笥漆塗職人-長谷部嘉勝
職人file ②
仙台箪笥漆塗職人

有限会社 長谷部漆工

仙台箪笥漆塗職人-長谷部嘉勝

私は塗師として塗りを担当し、12代目になります。漆塗り店の長男だったことで、塗りをやろうと思ったときもあったんです。ただ、本気で職人を目指したのは、就職の時にサラリーマンになることが自分として求めていないものだと気がついた時でした。そこから漆塗りに対して気持ちが向きました。

漆塗りの技術というのは、仙台独特の技術があります。そして、他の地域ではまた違った技術があります。私は他も勉強してきなさいということで、鎌倉や京都などあちこちに行かせてもらいました。仙台箪笥の場合、まるっきり平らな部分に塗る、というのが主なんですが、他では違うんです。鎌倉の見事な彫りや漆塗りを求め鎌倉まで通ったり、京都の知り合いを辿って刀の使い方やヘラの形や素材のアドバイスを受けたりもしていました。

今は交流もありますが、仙台箪笥自体分業制で発展したため、当時は職人同士の交流ってほとんど無かったんです。今のようにインターネットで何でも手に入る時代では無かったから、色んなところに出ていき、色んな地域の職人さんと出会い、そういった交流から紹介してもらって私はノウハウを取り入れていましたね。

これからは、時代に合った売れるものを開発ないと中々次の時代に繋がっていかないと感じています。一つのものに固執すれば、職人的には楽なんです。同じものを作る方が手馴れてくるし、良いものができる。だけど、売れなくなった時に困る。
売れて初めて、職人さんも育てられるし、次の世代にその技術を伝えることが出来るので、廃れさせてはいけないと思っています。環境が変わることで、需要も変わってくるので、その時代に合ったものを作り続けていきたいですね。

仙台箪笥漆塗職人-栗谷秀樹
職人file ③
仙台箪笥指物職人

くり工房

仙台箪笥漆塗職人-栗谷秀樹

私は元々塗りをやっていたわけではなく、作る方が好きだったんです。ただ、ものづくりに対してどうしようか悩んでいた時があって、一番身近にあったものづくりが仙台箪笥でした。それなら勤めながら学べ、自分も腕を磨ける。それで塗りをはじめたんです。

34歳の頃に塗りを始めたんですが、特に苦労という苦労は感じ無かったです。とにかく覚えなきゃ何もならないので、そのことに必死でした。幸いその頃、知り合いから東北芸術工科大学の漆芸科の教授を紹介してもらいました。約一年間、山形に通い漆の手ほどきを受けました。それが基礎となり、今日まで木地呂塗に取り組んでおります。本当にその時のご縁には感謝しています。

まぁ、もし苦労を強いて言うとすれば、職人がすくなかったので専門的なことを色々と話しあったり、交流できたり、情報交換ができる環境が少なかったっていうことですかね。

塗りって、単純な作業なんです。だけど、やっぱりただ塗るだけでは駄目でね。
下手な仕事をすると黒くなるんですよ。それだと木目がやっぱり綺麗に見えない。単純なようで明るくするっていうのは中々難しいから、ここまでくるのに試行錯誤しながらやってきました。自分なりに色々試してやっと色が出せるようになったと思っています。

仙台箪笥は、江戸の末期から始まって、明治に輸出したりして上手く対応してここまで来た伝統工芸です。伝統工芸品っていうのは常に進化して、新しいものに挑戦していかないと、漆そのものばかりをやっていたのでは意味がないかなと思うこともあります。もちろん、分業だから難しいこともあるけど、いろんな面から変わっていかなくちゃなとも思っています。